お隣さん | 人種のルツボでカリフォルニア生活

お隣さん

 今日の日中は28℃5.16.05
を超す真夏日より。私達はちょうど買い物から帰って来たところだった。玄関のドアを開け、外で靴を脱いでいる時の事。

   ガチャリ

お隣さんが玄関を開けた音が聞こえた。私達はそろってそちらの方を見ると、そこにはパジャマ姿に氷を包んだようなタオルを頭にあて、突っ掛けを履いたお隣さんがゆっくりと出てくる所だった。このベトナム人の隣人、年齢は60代後半ぐらいのおばあちゃん。30代半ばくらいの、ちょっと女性っぽい息子と2人で暮らしている。いつも綺麗にお化粧をし素敵な格好をしているおばあちゃん。外に出かける時は何時もサングラスをかけ日傘を差すほどお洒落なのに、今日はどうしたのかしら・・・。

 「どうしたのかなー。」

私達は2人で顔を見合わせつつ、お隣さんにいつものように挨拶をした。すると眉間にしわを寄せ辛そうな彼女は、氷を頭に押し付けながらベトナム語で何やら私達に訴えかけてきた。実はこのおばあちゃん、英語を全く話せない。私達の事は日本人と知っているのだが、今日は一生懸命ベトナム語で何かを告げようとしている。

 私:(転んで頭を打っちゃったのかな・・・)

 彼:(救急車呼んだ方が良いのかな・・・)

 「大丈夫ですか?」

私達は聞いてみるも、返ってくるのは私達の全く理解不能なベトナム語。よく見ると両のこめかみにシップを小さく切ったような物が貼り付けてある。どうやらひどい頭痛に悩まされているらしい。

 「頭痛??薬飲んだ?」

私達は一生懸命彼女を理解しようと、色々と話しかけた。しかしおばあちゃんは痛そうに顔を歪め、氷を押しあてて同じ言葉を繰り返すだけ。たぶん、「痛い、痛い」って言っているんだろう。フィアンセにおばあちゃんを見ててもらい、私は自分の部屋から頭痛の薬持って来、それを彼女に見せた。しかし「もう薬を取ったんだ」とジェスチャーで彼女が言う。うーん、どうしよう。

 そうこうしている内におばあちゃんの表情も徐々に穏やかになってきた。そしていつしか私達2人を指差しながら笑顔で何かを言っている。どうやら、もう大丈夫そうだ。そんなこんなでやっと自分の部屋に戻ってきた私達。しかしまだお隣さんが心配で、玄関のドアを少し開けておいた。いつでもおばあちゃんが訪ねて来れるように。


 しばらくすると息子さんが帰ってきたらしい。開いた隣の窓から家の玄関を通って、2人の元気な声が私達の耳の届いた。もう心配無さそうである。もしかしたらお隣のおばあちゃん、1人の時にひどい頭痛にみまわれ心細かったのかもしれない。

 そして、そっと私達は玄関のドアを閉めた。



             5月15 23:16